「さて、と…」

 
社長の家に引っ越して数週間。


段ボールを必要最低限しか開けなかったので、キッチン用具を片付けるくらいで私の引越し準備は終わってしまった。


冷蔵庫に残った食材を全て使って料理を作ったので、お昼は随分豪華な食事になってしまった。


最後に、何度も使ったシンクやガスコンロを綺麗に磨き上げた。


壁時計に目をやる。


もうすぐ17時。


朝日さんが迎えに来る。


私はリビングの窓の近くに行き、外の景色を眺めた。


ここからの景色も、見納めか…。




昨日の夜。


あれから社長は部屋から出て来なかった。


私はベッドで声を殺して泣いた。


明け方まで起きていたけど、気がつけばいつの間にか眠っていた。


ここでの最後の夜は、眠くなるギリギリまで社長とおしゃべりしていたかったのに……。


 
そんなことは、叶わなかったな。