社長が私の右肩に手をかけて、私を仰向けにする。


社長は私の顔を真上からじっと見下ろしていて。


社長の真剣な眼差しに、心臓が喉から飛び出しそうなほどに暴れてしまう。


「水沢…」


少し潤んだ社長の瞳が色っぽくて、私は身動きが取れない。


お願いだから、そんなに見つめないで欲しいのに…。


社長の右手が私の左頬をそっと優しく包み込む。


「社長…」


震える声を出すけれど、社長はそこからどけようとはしない。


せつない顔をする社長。


ダ、ダメ。


こんなのダメだよ。


社長はありささんが好きで、私は朝日さんが好きで、お互い好きな人がいるのに。


きっと抱きしめあったりしたから、この雰囲気が社長をそうさせてるんだ。


逃げなきゃ。


どうにかして逃げなきゃ。


「社長、じょ、冗談はやめてください」


社長のこの真剣な顔からして冗談には思えないけど、このままキスなんか絶対に出来ない。


「冗談なんかじゃない…っ」


社長の顔が、ますます苦しそうになっていく。


「だって、だって社長はありささんが…」


私がそう言うと、社長はハッとした顔をした。


少し目が泳いでいる社長。


「そ…うだよな。

お前だって朝日が好きなのに…。

ごめ、ん…」


そう言って社長は、私の頬に触れていた手を離した。


どうしよう。


気まずい……。


「悪かったな。

今夜はありがとう。

お陰で眠れそうだよ」


「…はい」


私はゆっくり体を起こした。


「それじゃ…あの。

おやすみなさい」


そう言って私はベッドから降りた。


「あぁ…、おやすみ」


社長は目を合わせてくれない。


なんだか後ろ髪を引かれつつ、私は社長の部屋を後にした。