「そうなんですか……。
俺も、その人の歌、聞いてみたいな……」
「たぶん、今日も来られると思いますよ?
いつもは保育園のお仕事をしてるらしいんですが、
時間があるときはここに来てくれるんです」
─────……その言葉を聞いた時。
どこからか、風が吹いた。
俺の手の中にあったノートの端がパタパタと……少しだけ揺らめく。
それと同時に、春の花々が、おだやかになびいていた。
公園にいる子供たちの声すら、かき消してしまうほどの……。
優しい風が吹いた瞬間。
俺の心臓が、音を立てる。
……俺の心の中にひとつ、あの頃の記憶があったから。
そう。
いつかの…彼女の言葉…………。
────────…………。
『私、保育士なりたいの』
『やっぱり私、夢叶えたい。
いろんな人と、この声で歌いたい』


