ゆっくりと、さっきまでピアノを弾いていた女の子の手はすずらんに触れた。



そして、優しく微笑んだ。




その表情は可愛くて、俺にも見せてくれた笑顔が嬉しく思えた。





「花、好きなんだ?」



俺がそう聞くと、さっきまでの困り果てていたような顔ではなくなっていて。



笑って頷いてくれた。




「そっか…」




そう言って、きちんと彼女のもとにすずらんを返す。




ずっと大切そうにすずらんを眺める女の子。



俺はそんな女の子を見つめていた。




音のない教室は、風だけが通り過ぎている。