「大丈夫?」


男は再び顔に笑顔を取り戻し、僕に手をさしのべる。


先ほどとの豹変ぶりに僕は戸惑った。



「アンタ一体…………」
「俺?言わなかった?ただの旅人さ。あるものを探し続けてる。」



言いながら男は僕の二の腕を掴んで、軽々しく僕を持ち上げた。



「ただの旅人だ。」



男の目が僕の瞳を覗く。

紅い瞳が。



「……怖い?この目」



男は肩を竦め、自嘲気味に笑った。



「生まれつきの色なんだ。」
「………怖くなんかない。その色、綺麗だと思う。」



僕は至極真面目に答えた。


そしたら男は瞠目した後、
声を上げて笑ったんだ。




「この目を綺麗だと言ってくれたのは、君で二人目だ。名前訊いてもいいかな?」
「……涼介(リョウスケ)」
「良い名だね。また機会があったら会おう。」
「アンタは?」
「俺は紅陽。この瞳と空に上がる太陽をかけて、紅陽という名だ。」



紅陽は踵を返して歩き出した。


「紅陽……」


――予感がしたんだ。



この男となら、この腐れ切った世の中でも楽しく生き抜けるんじゃないかと。



気付けば僕は紅陽の背を追っていた。