壁にドアノブが付いているような扉に手をかけて、ゆっくり回した。
扉と壁の間から期待が飛び込んでくる。それは全身から心に届いた。
「失礼します」
少し遠慮がちな声で顔を覗かせた。
目には似たような二つの顔が映った。
「あら和也君。本当に来てくれたのね。ありがとう。この子がさくら」
手が指すほうにはベッドに座った笑顔の同じ年くらいの女の子がいた。
「えっと…」
「奥奈 さくらです。よろしく和也君。ごめんね。お母さんの我が侭で」
答えに困る俺より先に自己紹介をしてくれた。
「いや、全然大丈夫だよ」
「けどね、お母さんの我が侭でも会えて良かったなって思っちゃった」
実際、もっと暗い子だと思った。病気に負けている子だと思った。
だけど、その笑顔は素敵で強い人だった。
脳は急いでイメージを書き換えた。
「あ、お母さんはトイレいってくるね。無理しちゃダメよさくら」
数分の沈黙に気を遣ったんだろうか。そのまま出て行った。
「座ってね。いつまでも立ってちゃシンドイでしょ」
「え?うん。ありがと」
壁際にあったイスをベッドのわきまで運んで座る。
そして考える。何を話せばいいんだろう?病気の事はダメだろうな。じゃ何を…?
そんな気持ちを察したのか、喋りたいからなのか、喋りかけてくれた。
「ねぇ学校って楽しい?」
「ん?そこそこかな」
「そっか。部活は?」
「やってないよ」
「ごめんね。楽しくないよね。こんな話」
そんなに楽しそうじゃなかったかな?と考えた。
嫌でもないし、帰りたいわけでもない。むしろずっと居たい気もした。
それならばただ緊張しているだけなのだろうか。
「いや、うん。緊張してるだけ…かな?」
「あー私もだよ。全然見えないと思うけど」
また笑顔を見せてくれた。
その時、心が動いた気がした。


