転びそうになったのは、俺じゃなくて雪岡の方で。

だけど、彼女のすぐ後ろにはさっきまで座っていた長椅子があったため、ストンと腰を下ろす格好になっていた。


それだけで済めばよかったのに、俺は俺でバランスを崩していたから、そのまま雪岡の方に前のめりになってしまった。

咄嗟にテーブルと長椅子の背もたれをそれぞれの手で掴めたからよかったけれど、危なく雪岡にダイブするところだった。


「大丈……っ」


大丈夫か、そう言おうとして一度息を吐いてから顔を上げた。


その言葉を全て言うことができなかったのは、さっきよりずっと近くに彼女の顔があったから。



びっくりしすぎて、フリーズ。


雪岡も、パチパチと瞬きを繰り返していた。


「……」

「……」


お互いにしばらく言葉が出ないままだったけど、瞬きのたびに大きく開かれていた雪岡の目が、ふいに、笑みに細められた。


「……ふふ。なんか可笑しい」


微かな笑い声をこぼして、雪岡はゆっくりその手を俺の方に伸ばしてきた。


細い指が、唇の端に触れる。