「……ここ、クリームついてます」
雪岡は俺を掴む手とは逆の手で、ちょん、と自分の唇の横を指差して言った。
「え、マジか。……とれた?」
グイッと手の甲で唇を拭って訊くが、雪岡はふるふると首を横に振った。
何度かそのやりとりを繰り返し、どうしても俺の顔から取れてくれないクリーム。
「……トイレで鏡見てくるわ」
「あ、それなら手鏡あるから……」
そう言って、雪岡が俺の腕から手を離そうとした瞬間だった。
「うわっ!」
ドン、と後ろから通路を通っていた他の客にぶつかられ、前につんのめってしまった。
普通ならそれで終わるのに、一瞬バランスを崩した先に雪岡がいて、その身体を押す形になってしまい。
「えっ!?きゃっ」


