「あっ、ごめんなさい!今退けますから」
慌てたように雪岡が席を立っても、俺はどうしてか動くことができなかった。
「……あの、水無月くん?」
不思議そうな声で雪岡に呼ばれてようやくハッと我に返る。
「あ、……ごめん」
なんとか小さく笑みを作って、自分の場所に腰を下ろす。
さっきまでカレーの空き皿があった場所には、美味しそうなワッフルの載った皿が置いてあった。
「航のやつも美味そうだよな!」
坂井がそう言ってきたことにも気付かずに、俺は自分でも信じられないくらい思考が停止していた。
「あの。水無月くん……?」
坂井くんが話しかけてますよ、と隣から遠慮がちに制服の袖を引っ張られ驚いてそちらを見れば、困ったような雪岡の顔。
俺と視線があったことに驚いたらしい雪岡だったが、彼女は小さく笑みを作った。
「……坂井くん、話しかけてます」
「……え?……あ、わり。なんだって?」
雪岡の言葉にようやく坂井の方を見れば、坂井はなぜかニヤニヤしていた。


