ぼんやりとそんなことを思いながら、二人の会話を聞いていた。
……その間もしつこく頭から離れないピアノの音は、たぶん、自分ではどうしようもないのだ。
自分の中で繰り返し流れる音が、はたして雪岡のものなのかそうではないのかも、なんだかわからなくなってきていた。
だけど、彼女を見たら音に伴う痛みが強くなりそうで、カフェに入ってからというものまっすぐに雪岡の顔を見ることができていなかった。
……むしろ、隣でよかったのかもしれない。
向かいの席だったら、容赦なく視界に入ってくるから。
雪岡が傷付くかもしれなくても、きっとわざとらしく視線を合わせないようにするしかなかっただろうから。
「雪岡さんって、家どのへん?電車通?」
皿の上の料理を完食しても、まだ雪岡に絡んでいる坂井。
無意識のうちにため息が零れていた。
……坂井、鼻の下伸びすぎ。
雪岡はどうやら律儀な性格らしく、坂井のくだらない質問にも丁寧に答えていた。
自分の皿の上のパスタがほとんど減っていないことにイライラする気配もなく、優しい声のままだ。
つか坂井、雪岡に飯食う暇くらい与えてやれよ……。


