それからほどなくして、パーティーが幕を開けた。
和やかな雰囲気の中、演奏が進んでいく。
生徒主催の演奏会で、しかも普段クラシックに触れていないような普通科の生徒も多いということもあってか、普通の演奏会よりずっと明るい雰囲気だった。
曲の合間に入る司会のふたりのトークも、思わず笑顔になってしまうような楽しげなもので、厳かで堅苦しい空気にはならないように気が配られていて。
……あっという間に、私の番がきた。
「梨音ちゃん」
ステージに出ていく直前、声を掛けてくれたのは、のん先生だった。
ふわふわの栗色の髪を優雅に結い上げていて、大人っぽいロングドレスに身を包んだ先生はすごく綺麗。
「先生」
私が呼ぶと、のん先生は私の手にそっと触れた。
それは、ほんの一瞬だけ。
だけど、それだけで勇気をもらえた気がした。
「大丈夫よ。いつもどおりの演奏をしてね」
微笑んでそう言ってくれた、先生の笑顔。
先生の、優しい話し方。
……今では、思うよ。
水無月くんに、そっくりだって。
「はい」
先生の言葉に頷いて、一歩、踏み出した。
ステージの上で礼をして、椅子に座って。


