……ああ。
そういうことだったんだね。
『俺はあんたの音、好きだよ』
そう言ってくれたのは、あの頃の水無月くんはまだお母さんのことが大好きで、私の音がお母さんの音がに似ていたからだったんだね。
「……水無月くん、あのね」
私のなかで、全部納得できた。
だからもう傷付くことなんかない。
きっと、ちゃんとピアノも弾ける気がするの。
「私の音が水無月くんのお母さんの音に似ているのは、私がずっと水無月くんのお母さんのピアノに……、のん先生のピアノに憧れていたから。そして私が小さい頃からずっと、のん先生にピアノを教えてもらっていたからだよ」
たくさんの色に染められた音がいきいきと踊っているような、そんな先生のピアノがずっと憧れだった。
……どうして気付かなかったんだろう。
たしかに先生はずっと、旧姓の『野々原』でピアノ教室を開いていたし、今も教鞭をとるときはその名前を使っているけれど。
先生の本名はまぎれもなく、『水無月紫』だって、知っていたのに……。