「ただいま」


学校から帰ってきてそう言っても、誰も返してくれる人なんていない。


同じ家に住んでいるのに。

ついこの前までは、楽しそうにピアノを聴かせてくれたのに。


まるで自分ひとりでこの家に暮らしているような感覚だった。


辛かった。


……だけど、それでも、出ていった父親を探して連れ戻そうとか、父のところへ行こうとか、そういう考えは不思議なくらいになかった。


それはきっと、どんなに変わってしまっても、母親のことが好きで。


何より大事で。


たとえ俺のことが嫌いでも、俺にとっては誰より、傍にいたい人だったからなんだろう。