────プツリ、と。
言葉と共にピアノの音が途切れた。
先程まで、荒々しくても正しい指のかたちで弾いていた彼女の手が、大きく上に持ちあがって。
……そしてその手が落下と同時に勢いよく鍵盤に叩きつけられたのを、俺は呆然と見ていることしかできなかった。
ありったけの力が込められた、不協和音。
強く乱暴な音の重なりが部屋に響き渡る。
その音が耳に届いた頃にはもう、母親に対して驚きよりも恐怖の方が大きくて。
今まで見たことのない彼女の荒んだ心に、ピアノに、音に、ただただ心が萎縮していた。
「……愛さなきゃよかった」
先程の力任せに叩きつけた音の余韻が残るなか、痛々しい声が聞こえた。
有り余るほどの感情が乗った言葉だと思った。


