色素の薄い、黒よりはブラウンに近い瞳。
いつもキラキラと輝いていたその瞳に映る自分がひどく怯えた顔をしていることに驚く。
母親の視線はぼんやりとしていて、俺を見ているようでどこか遠くを見ているようだった。
「どうしたの」
もう一度、掠れた声ではあったがなんとか言葉を発すると、母親はぽたりと頬に涙を滑らせた。
「……私の音はね」
そう、ぽつりと母親がこぼした声は、こんなにも涙を落としているにもかかわらず、不思議と嗚咽も震えも無い。
……その不自然さのせいだろうか。
彼女の声が鼓膜を揺らした瞬間、ゾクリと冷たく背筋が震えたのを感じた。
「私の音は、私のすべてなの。私自身が幸せじゃなきゃ、幸せな音は出せないの」
そう言ったのは、いつもとは比べ物にならない位に、温度のない声だった。
「……何、言ってんの?」
言葉の意味が分からず訊き返す。
すると彼女はまるで俺を蔑むように目を細め、
「お父さん、いなくなっちゃった」
と囁くような声で告げると、俺から視線を再びピアノに向け指を白い鍵盤に乗せた。
「もうここには戻らないんだって。……ふふ……。私のせいね」
自嘲して、彼女は指を引きずるようにして音を奏で始めた。
「……っ」


