シュガーメロディ~冷たいキミへ~



いつも通り、学校から家に帰ると、ピアノの音が聞こえた。


それはいつものことだったけれど、聞こえてきた音がとてもじゃないけどいつもの母親の音ではなくて。


軽やかで優しさに満ちていた音色からはかけ離れた、乱暴で丁寧さのかけらもなく掻き鳴らされた音。


あんなに大切に一音一音を扱っていた母親の演奏だとは思えなくて、演奏室に行ってみれば、いつもの綺麗な母親の姿はそこにはなかった。



いつもひとつにまとめているふわふわな栗色の髪はボサボサのままで。


驚いて近づいてみると、何時間力任せに鍵盤を叩いたのか疑いたくなるほど指が赤くはれていて。



普通に弾いていたらこんな傷にはならないはずだった。


俺が来たことにさえ気付いていない様子の母親に、はじめは驚いて何も言葉が出てこなかった。


だけど、どうにか『どうしたの?』と言葉を押し出すと、ようやく俺の存在に気付いたらしい母親は鍵盤をたたく指を止め、ゆっくりと俺の方を見た。


……その瞳が赤く充血していたことも、頬が涙にぬれていることにも、その時ようやく気が付いた。