「……うん、聞いたよ。どうして私のピアノが水無月くんのお母さんの音と同じだと水無月くんが辛くなるのかは分からないけど」
痛みをこらえるような顔でそこで一旦言葉を切った雪岡は、覚悟を決めるかのように一度、息を吸って。
まっすぐに、俺を見た。
「……何か理由があるんだって思っても、私のピアノは水無月くんのことを傷付けるんだって思ったら、やっぱり辛かった」
はっきりと自分の傷を告げる雪岡が、綺麗だと思った。
泣きそうな顔をしながらも絶対に涙をこぼさない雪岡の強さに、驚いた。
やっぱり雪岡のことを苦しめていたんだって分かっても、そういう自分の傷よりも、まず先に思ったのは驚きと、そんな彼女の強さに対する眩しさ。
「……俺の母親、結構有名なピアニストだったんだ」
……俺が昔の話を始めようとすると、雪岡はその澄んだ瞳を俺から逸らすことなく、大きく一度瞬きをした。
「だけど、俺が丁度中学2年に上がった頃。……突然、弾けなくなった」
「え……」


