────雪岡がピアノを弾く姿は一度しか見ていない。
だけど、その一度でも充分すぎるくらいに伝わってきたのは、雪岡のピアノに対する想いだった。
『ピアノが好き』
たとえ俺が彼女の音を拒んでも、その想いだけは拒めないくらいに強く伝わってきた。
あんなに慈しむように音を紡いでいたのに。
あんなに楽しそうに指を滑らせていたのに。
色鮮やかで軽やかな音色は、まぎれもなく、才能だった。
あれほどピアノを丁寧に扱う演奏者を、俺は他に知らない。
……そんな、雪岡が。
「……っ」
「早くどうにかしてよ。あんなに落ち込んでる梨音を見るの、辛い」
そう言った吉倉が、眉根を寄せて痛みを耐えるような表情になったのは、間近で雪岡の苦しむ姿を見ている時の辛さを思い出したからだろうか。
「でも、どうにかって言ったって」
「謝ればいいでしょ。とにかくちゃんと梨音と話をして」
俺の言葉を遮った吉倉の言葉からも、そしてその表情からも、切羽詰まった何かを感じた。


