戸惑いのあまり自分の世界にどっぷり浸っていたあたしは、しかし突然耳に飛び込んできた梨音の言葉で、勢いよく現実に引き戻された。
「このみちゃんが今野くんとなにかあったみたいで……、あ」
厨房にやってきた水無月くんに言った、その的を射た一言にカッと耳まで熱くなる。
梨音が自分の言葉に焦ったように必死に誤魔化そうとしたけれど、出てしまった言葉はもうどうしようもなくて。
「……このみん」
鼓膜を震わせた、心地いい声に思わず身体が跳ねた。
「っ」
もう。
あたし、恥ずかしい!!
こんなの、意識してるってバレバレだよ……!!
……たえられなかった。
こんな自分にも、こんな空気にも。
だから、思わず肩に触れた今野くんの手を振り払って。
「こ、このみちゃん……っ!」
焦ったようにあたしを呼んだ梨音に視線を向けることもできないまま、気付いたらあたしはその場から逃げ出していた。


