キーンコーンカーンコーン...

授業終了のチャイムが鳴り響く。

寝ていたやつ、落書きをしているやつ、携帯をいじっていたやつ、皆が顔をあげる。


黒板に向かっていた先生は、チョークの粉の付いた白い手を擦りながら、号令、といつもの低い声を発した。


「きりーつ」

日直の、いかにもやる気のない声で号令がかかる。


その声に釣られるかのように、だらしない声を出すクラスメイト。



いつもと何ら変わりない日常だ。




「遥ぁー、また行くのかよ?図書室」

「裕介…あぁ、お前も来れば?」

俺の誘いに対して、裕介は遠慮する、と苦笑した。


「なぁ、お前大して本好きじゃなかったよな?どうしたんだよ、急に」

「どうしたって…別に、俺だって興味のあるものくらいある」

「うっそだぁ」

と、からかい気味の声をかけてきたのは、裕介ではなく、幼馴染みの彩希だった。


彩希はモテる。

さらさらの焦げ茶の髪、
まぁまぁ整っている顔立ち、
そこそこの成績、
中の上くらいの運動神経、
明るくフレンドリーな性格、



決して完璧とは言いがたい彩希だが、モテる。
俺には到底分からないが。


「嘘じゃねぇし。休み時間終わっちゃうだろ、どいて」

「連れないねぇ」

何にだよ。

わざとらしく方をすくめる彩希はそれでいて優しい笑みを浮かべていた。




















「はぁ…また貴方なのね」


図書室に行けば、今日も君がカウンターで座っている。

進級してから半年間。ここに通い続けた俺はすっかり図書室の常連になっていた。

本は読まないけど。





彼女、栗原栞は俺と同い年(中2)の図書委員だ。

ちなみに帰宅部。


「良いだろ、別に」


カウンターに乗ると、栗原は虫でも見日のように、降りなさい、と言った。


まぁ、降りないけど。


「良くない。ここは図書室、静かにしてよね」

「誰もいねーけど」

「うるさいわね」


それだけ言うと栗原は手元の分厚い本に視線を戻してしまう。


顔が見れないのは残念だけど、
俺は栗原の本を読んでいる時が一番好きだ。


伏せ目がちになる瞳に影を作る長くて反り返った睫毛。



モテるんなら、彩希じゃなくて栗原が正当だと思うけれど、現実は違う。



栗原は男子に人気がない。

少なくとも、部活の合宿で『タイプな女子ランキング』にはランクインしていなかった。



「...なぁ、面白いの?その本」

と、話しかけてみても答は分かっている。


「……」



本を読んでいる時、栗原に周囲の声は届かない。

そういう意味での集中力は凄い。





でもまぁ、いいか。


だってこれも、いつものことだし。




だって、これだけ君を見つめても気がつかないなんてさ。





俺にとっちゃ、好都合なんだよ。