忍は亡くなった勝のために、移動時に車椅子を取り付けられる工夫をしたステーションワゴンに乗っていた。


陽子は時々、その車で練習をさせて貰っていたのだった。

だから、バレンタインデーの時、一時帰宅した勝を乗せて西善寺までドライブ出来たのだった。

それは陽子にとってかけがえのないものになっていたのだ。


「熊谷の灯籠流しは親父のためでもあるんだろ。それだったら是非使って貰いたいと思ってさ」

忍だって本当は車を使いたいに決まっている。
でも、敢えて言い出したのだ。

忍の優しさは、勝ゆずりだった。

翼を支えた、暖かい家族。

陽子は忍の愛に感謝した。

純子の幸せそうな横顔を見つめながら、足繁く通った日々を思い出していた。


二十歳まで恋知らずだった陽子に突然訪れた奇跡。

それは翼と陽子、二人の軌跡でもあったのだ。


弟に中川の家を継がせるために、横瀬で職場を探した陽子。
でも、忍と純子のコネは使いたくなかった。

二人は町役場に勤めていたから、それ故雇ってもらったと言われたくなかったのだ。

あくまでも木村陽子として、就職活動で掴んだ内定だったのだ。


保育園で陽子が一番苦労したのは正座だった。
無邪気に動き回っている子供を、足に引っ掛けて転ばせなくするためだった。

でも、これがキツい。
すぐに痺れる。
スネも痛くなる。
座布団で転ぶことも考えられるので、床に直に座わるからだった。