勝にゆかりの人達が次々と堀内家にやって来る。
明智寺で灯した提灯を家族四人で運ぶ。


堀内家の新盆の第一目は、静かに過ぎて行く。


迎え火を炊く。
勝が迷わず戻って来られるようにとの願いを込めて。


「親父寄り道しないで帰って来いよ」
忍が明智寺方面に向かって声を掛ける。


「あなたこんなに近いのにそれはおかしいわ」
純子が寄り添いながら忍の太ももを軽く叩く。

忍はその手を掴み堅く握り締めた。


「あなた痛いわ」

純子が甘い声を上げる。
でも忍は何も言わずに純子の手を離そうとしなかった。


「あなた!?」
純子が不思議がって忍を見つめる。
純子の視線の先で、忍は泣いていた。




 忍はハッとした。
慌てて頬に流れる物を指で拭った。


「どうしたの?」
純子が忍を見つめる。


「いや……何でも……ただ何となく寂しくて」

忍はチロチロ燃える火を見ていた。


「ごめん。お前が何時も側に居てくれるのに……。馬鹿だな俺は」
忍は純子の手をもう一度堅く握り締めた。

優しさ溢れる夫婦水入らずの時間。

翼と陽子はそんな仲むつまじい二人に当てられっぱなしだった。

二人は目配せをしながら、そっとその場を離れた。

でも忍と純子夫婦は、二人の気配りに気付かずにずっと寄り添っていた。


「親父達のような夫婦になろうよ。母親の記憶は余りないけどね」

忍は純子にウインクを送った。

純子は忍に手を握り締られたまま頷いた。


「翼。熊谷には何で行くのかい? 良かったら俺の車使っていいよ」
忍が突然声を掛ける。

翼は一瞬ドキンとした。

邪魔してしまったのではないかと思って。


車は乗りたかった。
でも翼は首を振った。
肝心の免許証を持っていなかったのだ。


「叔父さんありがとう。でも僕免許証が」
そう言おうとした翼。


「何言ってるんだ。車を貸すのは陽子さんだ。無免許のお前に貸したら逮捕されるのは俺だ。おい翼、何時から其処に居る?」


「一応、気を使ったつもりだったんだ」

翼が笑うと忍が照れも笑いをする。


「当てられ放しだったから、かな?」


「当ったり前だよ。叔父さんの愛の炎で!」
翼の大声で叫んだ。

其処には、やっと明るさを取り戻した家族がいた。


何時までも勝の迎え火を愛しそうに見つめていた。