二重人格三重唱

 日曜昼、玄関のチャイムが鳴った。翔だった。


「話があるんだ、ちょっと出ないか?」
翔が言う。

翼はそれに応じようと靴を履いた。


「親父とお袋の秘密を知ったんだ。お前も驚くぞ」
歩きながら翔が言う。


「何だよ?」
そうは言ったものの翼には思い当たる事があった。

田中恵が言った香の事だった。


「俺とお前、お袋が違うんだ。お前は親父が浮気して出来た子供だったんだ」

翼は翔のその一言にショックを受け立ち止まった。


「なあ。驚くだろう。でもな、その浮気相手が問題なんだ。よりによってお袋の妹だったんだ」

頭の中で翔の言葉が渦を巻いて翼の思考回路は停止した。




 「何が双子だ。母親が双子で父親が同じだったら、そっくりに生まれて来るさ、俺達のように。お袋が可哀想だよ。何故お前なんか育てなきゃならないんだ」
翔は言いたい放題言った。

そして更に付け加えた。


「この厄病神!」

翔は捨て台詞を残して消えていった。


何故翔が今日言いに来たのか?
答えは一つだった。

東大受験に向けて動き出した翼を潰すためだった。

翔も不思議だった筈だ。自分には贅沢させるのに、翼は粗末な物ばかり。
どうしてなのか考えた。
そして、ある方法を思い付く。
母の愛を確かめる方法を。

それがあの柿の実事件の元だった。

あれは翔の仕掛けた、翼を軽蔑する存在だと確かめるための罠だったのだ。


翼が母親に愛してもらいたくて葛藤していること。


抱き締めてもらいたくて勉強を頑張っていること。


全部知った上で……。

初恋の相手が翼に贈ったオルゴールの敵を取った。


祓いせ、何て単純な物では片付かない。


母親を取られなくするために……。


翔には翔の翼に対するプライドがあったようだ。


だから翔は調べたのだ。

そして知ったのだ。
母親の薫と同時期に、薫の妹の香も妊娠していた事実を。


翼が香の子供だったら……

全て辻褄が合う。

母の溺愛と卑下。
その全てが……
翼の母にあることを。




 『香の子供が産まれていたら』
田中恵の病室での一言がよみがえる。

子供は産まれていた。

それは自分だった。


それでは自分が香の子供なのか?
でも祖父は、薫の事を香と言った。

祖父の目には香だった筈だ。