成人式の会場から出た陽子はそのまま勝の病室に向かった。
どうしても見てもらいたかったのだ。
実は其処には翼が待っていてくれることになっていたのだった。


「まるで結婚式の衣装のようだ」
陽子の振り袖を見て感慨深そうに勝は言った。


「どうだこのまま此処で式を挙げてくれないか?」
勝が、陽子と翼の手を取って言った。


「なんだったら、誓いのキスだけでも……」

勿論軽い冗談のつもりだった。

でも、突然言う勝に陽子は度肝を抜かされていた。

慌てふためいた陽子の顔を見て、勝は笑い出した。


その途端、二人は顔を見合わせた。


「もうー、おじ様の意地悪!」

陽子は高揚した顔を更に真っ赤にしながらシャワールームに隠れてしまった。


「お祖父ちゃんなんてこと言うんだよ」
翼は真剣に、勝を怒っていた。


でも……
シャワールームからは笑い声が聞こえていた。


陽子は、勝のジョークが本当は嬉しかったのだった。


そう……
やっと勝に明るさが戻ってきたからだった。




 勝が再入院して一カ月が経とうとしていた。
延命治療は拒んでいたが、それでも長生きしてほしいと翼は思っていた。


比較的持ち直したので個室から六人部屋に移った勝。
大勢の中に居ることがパワーに変わっていく。
勝は退院した頃のように、元気になっていた。


もう二度帰れないと思っていた。
自分自身も、今後ばかりはと諦めかけていた。

でも奇跡は舞い降りた。


翼と陽子が結婚するまで見届けたいと願う強い意志が働いたためだった。

クリスマスから年末年始に家族と過ごせたことだけで満足していた。
でも又欲が出てくる。
出来ればもう一度戻りたいと思っていたのだった。