(えっ、やっぱり見られていたのか)

陽子は呑気にそんなことを考えていた。


「えっー、彼処は資産家って噂よ。陽子も玉の輿に乗ったか? やったじゃん」


(えっー!? 玉の輿って何?)
陽子は驚いた。


実は、陽子は孝が不動産を沢山所持している事実など全く知らなかったのだ。




 「玉の輿って何?」
陽子が真面目な顔をして尋ねた。


「イヤだ。アンタ知らずに付き合っていたの?」


「日高家って言ったら、昔からの資産家でね」


「テニススクールもカフェも、オーナーの趣味だって聞いたわよ」


「何でもねー、遊んでても暮らせるんだって」


「ふーん」
人事のような陽子。


陽子にはそんなことは関係なかった。
ただ翼だけ居れば良かったのだ。
翼の家に財産が有ろうが無かろうが眼中になかったのだ。


確かに玉の輿は魅力的だ。
遊んで暮らせるのも……

でも翼は、腕時計さえ買って貰えないのだ。


陽子は急に切なくなった。

同じ双子でありながら、きっと翔は贅沢三昧をさせてもらっている。
そう思ったら……


『結婚したいだと! まだ高校生だぞ』
孝は頭ごなしに翼を叱り付けた。

陽子は不意に正月の出来事を思い出した。


『もう嫌なんだよこんな家!』
翼は感情を爆発させた。


『生活はどうするんだ!?』

孝はまだ息巻いていた。


『私が……横瀬の保育園から内定を戴きましたから』

その言葉に翼は驚いたように陽子を見つめた。


(あっ、そうだ!? 私が支えようとしていたのだった。翼を……それなのに何故? 資産家なのに……資産家だったら……)




 「発表します。陽子と彼はお祭りでいちゃついていました。もう凄かったんだから」

陽子の顔が高揚するのが解る。


「そんなー。ただ離れ離れになりそうだったからくっ付いていただけよ」

陽子は慌てふためいて、必死に防御対策を考えてていた。


「ほら、言った通りでしょう?」


「真っ赤になった陽子が証拠か? しょうがのないな。はい、千円」

その言葉に陽子はびっくりしていた。


「実は……」


「陽子に恋人が居るっていうから、確かめただけよ。でも本当だったとは……」

どうやらクラスメート達は陽子の恋で賭事をしていたようだ。


「でもそんな事したら捕まるよ」

陽子は笑いながら言った。