「あ……。ごめん」

とてもイヤな沈黙。

家族にプレゼントして貰えるはずのない翼を、不本意な一言で傷付けてしまった陽子。


(御両親を差し置いてまで、堀内家が買ってあげられるはずもないのに……)

陽子は落ち込んでいた。


「今まで困らなかったから持っていないだけだよ」

たまりかねて翼が言った。

その優しさが陽子の胸を締め付けた。




 永い永い沈黙。

陽子は良い解決策がないかと頭を悩ませた。




「あ、そうだ!」
そう言いながら陽子はバッグの中に手を入れた。


ガサゴソ陽子が何かを探してる。

出てきたのはダイバーウォッチだった。

陽子は躊躇わずに翼の腕に装着させた。


「えっ!」
翼は思わず驚きの声を上げた。


「もう要らないから翼にあげる。ごめんね本当に」
陽子は翼を優しくハグしながら、心無い一言を誤っていた。


陽子のダイバーウォッチは翼の腕で又輝きを取り戻したようだった。


三峰で育った陽子は,泳ぎが不得意だった。


土産物屋の自宅からロープウェイ入口駅まで行く途中に赤い橋があり、谷底を荒川が流れている。


其処から下を見ると引き込まれそうになる。


そんな場所では、遊べる訳もない。

勿論下りるための道はある。

でも陽子は怖くて近寄れなかった。


水遊びは小さなビニールのプール位だった。


だから小学校のプールでも、カナヅチで通した陽子だった。


でも保育士になるために必要だと判断して、通っていた短大の近くのプールで特訓していた。

その時使用していた物だった。


ミューズパークに向かう赤い巴川橋に反応したのは、そんな理由だったのだ。