姿の池を後にして、陽子は羊山公園へと足しを向けた。

秩父市内が一望出来る小高い丘の上。

此処は秩父夜祭りの仕掛け花火の会場だった。


陽子は迷わず、ベンチに座る。


「ゴメン。お昼忘れていたね」
そう言いながら、バッグの中からサンドウィッチとポットを出す。


翼が気になった、重たそうな陽子の荷物の中身は二人分のお弁当だったのだ。


『重そうだね。僕が持とうか?』
一応声を掛けてみた。
でも陽子は首を振った。

本当は重たかったのに……


『大事な物が入っているから、私が持つわ』
陽子はそう言いながら、とびっきりの笑顔を翼に向けた。


そんな二人の朝の会話を思い出しながら、陽子は笑っていた。


「えっー手作り? 大丈夫か?」
でも……
翼は思わず言った。


「何よ!」
その一言につい声を荒げた陽子。

しまったと思いながら、気まずい雰囲気になる。


(何よ、あんなに苦労したのに……それに重かったんだから)

陽子は本当にがっかりしていた。


沈黙の時間が流れる中、やっと事情を察した翼。


「ごめん。ホラ長い間持ち歩いただろう……」
シュンとしながら言う。


「腐ってないかってこと? 大丈夫よ。バッチリ対策してきたから」

バックの中からもう一つのバック。それは冷蔵バックだった。

サンドウィッチは大量の保冷剤でガッチリ守られていた。
だからなおのこと重かったのだ。


陽子は翼に見せ付けるようにサンドウィッチを頬張った。


「ほら、大丈夫だ」

その声を聞いて、翼は笑いながらサンドウィッチに手を伸ばした。