コミネモミジの寺を出て脇の坂道を下る。

暫くいくと高架橋が見えた。

途端に二人は元気に走り出した。


「やっぱりこっちで良かったのよ」
陽子が得意そうに言う。

翼はそんな陽子を笑いながら見ていた。


比較的大きな通りに出た二人は迷っていた。
前には店があり、その横に道があったからだった。

冒険に少し懲りた二人。
結局左に曲がることにした。

でもその道は予想もつかない場所だった。


今度はもっと大きな通りに出くわした。
それは紛れもなく、国道299だった。


右に曲がると直ぐ橋があった。
それこそ、二人が描いていた横瀬川だった。


「何時国道を追い抜いたのだろう?」

西善寺は国道より西に位置していたはずだった。
でも出くわした道はそれの東。

考えても考えても答えは出て来なかった。


「ザ・陽子マジック!」

太陽に向かって拳を突き上げる陽子。
翼が目を白黒させる。
そして翼も後に続くように拳を突き上げた。


二人は気付かなかった。
通り過ぎた頭上に高架橋があったことに。
それが国道299号だったのだ。


国道には、松枝から西部秩父駅行きのにバスが運行しているはずだった。


バス停を見つけて、走り寄った陽子。

でも次のバスの到着までかなりの時間があった。

二人は又歩き出した。


何だか可笑しくなって笑う翼。

そんな翼を見て笑う陽子。

仲むつまじい国道のんびりデート。


「横瀬川よ。やっと来たわ」

言ってからおかしいと思った。


「ねえ、さっきのも確か横瀬川だったわよね?」


「うん、そうだねー?」


「どーなってるの!?」


「さあ〜? どーなってるんだろう!?」


二人は橋の上から遥か向こうにある荒川に思いを馳せながら、この疑問を苦笑していた。


この地域で横瀬川は大きく蛇行していた。
だから二つの橋がかかっていたのだった。


信号を幾つも渡り、坂氷バス停近くになった。

斜め左に折れると、姿の池が現れた。


「おじさまに聞いたのだけど、昔はここにボートが置いてあったんだってね。何で無くなったんだろ? あったら二人で乗るのに」

陽子は沢山歩いて疲れている筈なのに、翼と二人で居られるボートに乗りたいと本気で思っていた。