切り丸太の曲がり角。

自然に生えてきた植物を見ながら、楽しそうな陽子。

そんな陽子を見つめる翼。

会話は無くても、二人は心を交わし合った。


「此処、もうちょっと整理すると良いね」

たまりかねた翼が思い切って口を開く。


「ううん、此処はこのままの方がいい」

思いがけない陽子の言葉。

翼は陽子を見つめた。


「だって今日のこと、この場所が覚えていてくれる気がする」

陽子はそう言いながら、翼を見つめ返した。


愛すると言う感情は持っていた。
親兄弟への愛だったり、クラスメートへの友情だったりは。

でも姉のように、一人の男性を激しく愛する感情が持てなかった。

陽子は姉に嫉妬していたのだった。

迷惑を承知で姉夫婦の元へ足繁く通ったのは、少しでも恋愛の極意を知りたかったからだった。


陽子は翼を見つめながら、やっと訪れた愛に陶酔していた。




 明智寺に向かう緩やかな坂道を、二人は並んで歩いていた。

白いガードレールの上にまで来ると、陽子は立ち止まった。


「此処が横瀬川?」


「ううん」


「じゃあ何て川?」


「知らない。横瀬川かも知れないし、違うかも知れない」


「もし此処が横瀬川でないとしても、確実に合流するね」

陽子はその小さな川の下流を眺めながら、そっと手を合わせた。

翼との未来を流れに託すように。


「あれっ!? 名前が書いてあるよ」

突然翼が言った。

ガードレールの根元に《このまさわ》の文字。


「やっぱりね。だって横瀬川がこんなに小さい訳がないもんね」

陽子は川の名前を確認するために屈んでいる翼の頭を撫でながら言った。


「まるで子供扱いだな」
顔だけ陽子に向けて翼が笑う。


――ドキッ!


(いやーん。翼可愛い!)

どんどん愛しさが増す。
陽子はどうすることも出来ずに、翼の頭に手を置いたまま固まっていた。