それでも、陽子の仕草に目がいく。

時折持ち替える重たそうなバッグ。

翼はその荷物がととも気になった。


「重そうだね。僕が持とうか?」
一応声を掛けてみた。
でも陽子は首を振った。


「大事な物が入っているから、私が持つわ」
陽子はそう言いながら、とびっきりの笑顔を翼に向けた。


――バキューン!!

翼のハートは完全に撃ち抜かれていた。


瞬間に翼は有頂天にさせられた。

次の言葉も探せ出せない位に。




 御花畑駅の横のスロープ。

その先の踏切を渡る。

秩父夜祭りのメインの坂上がり・談合坂を登ると山車の集結する広場。
右へ折れて暫く行くと西部秩父駅。

駅前のポールにぶつかるようにワザと歩く陽子。

思わず手を離した翼。
慌てて横へ行き手を繋ぎ直した。

悪戯っぽく陽子が笑う。

翼は思わず息を呑んだ。

そして……
雷に撃たれたかのように動けなくなった。

それでもやっと冷静さを取り繕い、平気な振りをして陽子に近づく。

でも陽子は翼の胸に掌を押し付けた。


「こんなにドキドキさせちゃってごめんなさい。だって翼って可愛いんだもん」

陽子はその後言葉に詰まって、後ろを向いた。

翼が陽子を心配して顔を覗くと、陽子は泣いていた。


「陽子……さん」

翼も何も言えなくなった。


「陽子でいいよ。だって、私だけ呼び捨てじゃ。何か姉さん女房みたいだから」

言ってしまってから、陽子は赤面した。


「まだ早いか!?」
陽子は泣き顔をくしゃくしゃにして、大きな声で笑い出した。




 駅前で陽子がいきなり溜め息を吐いた。

翼は陽子が心配になり、顔色を伺った。


「ね。横瀬駅の方が楽でしょう?」
突然陽子が聞く。

翼は何の質問なのか解らず戸惑っていた。


「階段よ。横瀬駅には殆ど無いの」


「へー。知らなかった」

その返事に驚いて、陽子は翼の手を離していた。


「えっ!? えっ!? え、ええーー!?」

思わず後退りをする陽子。


「横瀬駅に行ったことも、降りたこともないの?」

不思議そうな顔つきで、陽子は翼を見つめていた。


「しょうがないだろ!!」

翼は思わず大声をあげた。


「だって……何時も自転車なんだから」
ボソッとつぶやく翼。


「ごめん……」
そう言いながら、陽子は翼をハグする。

翼の全身が又震えた。
陽子はそれを肌で感じながら、愛しい翼をハグし続けた。