翼は常に翔と戦っていた。

陽子に会いたい一心で。

側にいて守ってやりたい一心で。

翼は翔の体の中でに魂となっていた。

あの日、サバイバルナイフで刺し殺されてしまったのだった。

死体は庭の隅に埋められていた。


イヤ、確実には翼はまだ死んではいなかった。

翼が埋められた庭。
そこで翼はやっと母に会う事が出来た。

母も殺されて庭に埋められていたのだ。

翼は母を求めて必死に指を伸ばした。


「母さんごめん。僕は此処で死ぬわけにはいかない。陽子を、陽子を守りたいんだ」

翼は恋しい母に体を預けて、旅立って行った。


翔は途方に暮れていた。

翼の構えたサバイバルナイフを奪ったとこまでは記憶していた。
でも刺したかどうかも定かではない。

気が付いたら翼が死んでいた。


隠すしかなかった。
だから穴を掘って埋めたのだった。


それがどんなに労力を使うかなんて考えもせず、ただ一心不乱に翼の存在を消すことだけに終始した。


そして翔は翼を殺した事実さえも隠そうとした。
自分の記憶の中から、意識の中から。

翼の存在した事実まで消していた。
苦しみから逃れるためにもう一人の人格が現れる。


其奴が翼を殺した。
いや翼自体存在すらしていない。
そう思い込もうとした。

出来る筈がないと解っていながら……


翼はその新たな人格によって、魂を翔の中に挿入することが出来たのだった。

翔に残った僅かな優しさによって。