二重人格三重唱

 帰りの車の中で、陽子は遂に言い出していた。
考えに考えた末に到着した、孝が本当の父親かも知れない事実を……


「何言ってるの? そんなことある分けがない!」


「ごめんね翼。私気付いてしまったの。翼が狂ったように私を抱いた夜のこと。あの少し前お義父さん家に来て、持って来たケーキを食べたら眠くなったってことを」


浦山ダムの見える橋の近くで陽子は車を止めた。

フラフラと橋の上を歩いて行く。

翼は後を追いかけた。


「私怖い! この子が翼の子供じゃないような気がして」
陽子は激しく自分のお腹を叩いた。


「何するんだ陽子!」
翼は陽子の手を止めた。


「こんな子流れてしまえばいい!」
陽子は泣き叫んだ。


「馬鹿! この子は僕の子だ! 僕達の子だ!」

翼は陽子の唇を自分の唇で塞いだ。


「僕が父親だ!!」
翼は狂ったように陽子を抱き締めていた。


今にも身を投げ出し兼ねない陽子。

必死で諭す翼。

やっとの思いで車に戻った翼は激しい愛を陽子にぶつける。


「そんなに流したいなら僕が流してやる! もしそれで流れなかったら、それは僕の子供だってことだ」

翼の激しい愛が陽子の体に突き刺ささった。


でも陽子は悟った。

あの日……
睡眠薬入りケーキを食べた後で何があったのかを。


コーヒーショップのオーナーに未熟なコーヒーを出したくなくて紅茶にした。

だから睡眠薬はケーキに入っていたのに違いないと陽子は思っていたのだった。