百点満点取っても喜んでくれなかった。

そんな時勝は知らない振りをして、頭をなぜながら誉めた。

翼に負担を掛けたくなかった。
勝にとって翼が可愛い孫なら、薫も娘だったのだ。
理由は解らないが、何かあると察してはいた。




 「あれっお祖父ちゃん、叔父さんは?」
日曜なのに堀内家に忍が居なかった訳は、勝の付き添いのためだったのだ。


「あ、忍なら買い物に行ってもらってる。すぐ戻ると思うよ。何か用か?」


「ううん……別に」
翼は言葉を濁した。

本当は陽子のことを聞きたかったのだ。


「僕、さっきまで留守番していたから……あのうー、叔母さんの妹と言う人に逢ったんだ」

翼は少ししどろもどろになっていた。


「陽子さんに逢ったのか?」
勝はニンマリしたような素振りをしながら、頷く翼を見ていた。


「どうだ。綺麗な人だったろう?」


「……」
翼は言葉を失った。
勝のその一言で、翼は固まっていたのだった。




 「あの子はいい子だよ。純子さんに負けず劣らず、素直で利発で」

勝が陽子の褒めるのを聞きながら、翼は陽子の整った輪郭を思い出していた。


又、ドキッとなった。

翼は勝から顔を背けた。


(お祖父ちゃん、僕の思いに気付いたのだろかか?)

翼は勝の顔もまともに見られなくなっていた。


(あぁ、もう一度会いたいな。ん!? でも何処に行けば会えるんだ?)




 「お義父さん、具合はどう?」
突然、純子が病室に入ってきた。
その後ろに陽子。
翼を見て、恥ずかしそうに俯いた。


――ドキッーン!!

翼の心は千千と乱れた。


「おじ様久しぶりです」
頭を下げる陽子。


又、棒立ちになった。

動揺を止める術もなく陽子を見つめる翼。


「はい、これ忘れ物」
そう言いながら、陽子は翼に教科書を渡す。


「あっ!」
驚く翼。


「机の上を見てびっくりしたわよ。何時もこんなことなかったから」
純子の言葉に、ただ頭を掻く翼。


「ごめん。お祖父ちゃんまた来るね」
と言いながら病室を後にした。




 教科書を忘れたのには訳があった。

陽子の美しさに見とれて、舞い上がってしまったのだった。

翼は陽子に一目惚れしてしまったのだ。


(あぁ、やっぱり素敵な人だな)

勢い良く病室から飛び出したものの、翼は此処でも暫く自転車を出発出来ずにいた。