二重人格三重唱

 一方、此方は居間の二人。
陽子がテーブルにコーヒを並べながら、考え事をしていた。


陽子は何も知らず平穏な日々を送っていたのだ。

それでも時々あの夜の、激しい翼の愛撫を思い出す。

虚ろな目を陽子に投げかけ、何度も自分を抱いた翼。

その異常なまでの愛にのめり込んで、自分も燃え尽きるまで淫らに堕ちた陽子。

自分にもこんな激しい感情があったまのかと、陽子は思い出す度赤面していた。




 今陽子が飲んでいるコーヒー。
そのコーヒーが……
ある記憶を導き出す引き金になろうとしていた。


脳裏に又あの夜のことが浮かび、陽子は思わず赤面する。


(でも何故翼は……何であんなに……)


思考回路を全開にして、陽子は疑問の糸口を探していた。


そして忘れていた事実を思い出す。


「お姉さん。一月四日のことなんだけど」

陽子は疑問を純子にぶつけようとしていた。


「一月四日?ああ翼さんのお父さんが来た日?」

頷く陽子。


「それが記憶がないの。なんかもの凄く眠くて」

純子は首を傾げる。


「そう言えば私ももの凄く眠くて。確かお義父様の持参したケーキを食べて……」


回想。
居間。
孝。
ケーキ。
激しい眠気。


回想。
風呂場。
翼。
シャワー。
激しい愛撫。


回想。
孝。
激しい眠気。


「あ、あーっ!」

回想。
翼。


『殺してやる! 殺してやる!』


「あ、あーっ!!」


回想。
秩父神社。


『いい娘じゃないか、翼には勿体無い』


「あ、あーーっ!!!!」
陽子はお腹を押さえた。
生理が止まっていた。
陽子は翼の子供を妊娠したと思いながらも、まだ誰にも告げていなかったのだ。


「イヤーー!!!!!!」
陽子は真実に気付いて、狂ったようにのた打ち回った。

純子は何が何だか分からずただオロオロしていた。


陽子は翼の激しい愛撫の意味を初めて理解した。

孝に犯された体を清めて、自分の愛で浄化する。

翼の深い愛に感謝した。

それと同時に……
孝に対する激しい憎悪が陽子の心の中を次第に支配していった。