陽子は純子と居間でコーヒーを飲んでいた。
日曜日なのに、忍は出掛けていた。
新年度からの配置転換で、部長になる忍。
そのための送別会だった。
でもそれは名目で、ただ単に飲みたいだけだった。
忍も男だったのだ。
幾ら女房を愛していても、言い出せないこともあったのだ。
愛すればこそ、言い出せないこともあったのだ。
それは、翼のことだった。
忍は翼が心配でならなかったのだ。
でも言えない。
言えるはずもなかったのだ。
忍は翼に二面性を感じていたのだ。
「翼、どうしちゃったんだよ?」
遂に言葉がついて出た。
「え、何何? 東大が合格した甥子さんのこと?」
部下が声を掛けた。
人の秘密は密の味。
一言でも話すとたちまち噂になるだろうと忍は思い、それで止めることにした。
それでも部下はしつこく聞いてきた。
「いや、何でもないよ。ただ合格したって言うのに受験勉強をやめないんだ」
「勉強がよっぽど好きなんですね」
「そうなんだ、昔から。俺と親父で勉強を教えてやっていたんだけど、何時もクラスで一番だったんだ」
「なあんだ、ただの自慢話ですか?」
忍はハッとした。
気付かれないようにと思って、予防線を張った行為の愚かさに……
そして安心したように又飲み出した。
「そうだよな。アイツ本当に勉強が好きだったんだ」
「羨ましい。そうだ、甥子さんの東大合格おめでとうございます」
一人が言い出した。
「おめでとうございまーす」
それは全体の言葉になっていた。
日曜日なのに、忍は出掛けていた。
新年度からの配置転換で、部長になる忍。
そのための送別会だった。
でもそれは名目で、ただ単に飲みたいだけだった。
忍も男だったのだ。
幾ら女房を愛していても、言い出せないこともあったのだ。
愛すればこそ、言い出せないこともあったのだ。
それは、翼のことだった。
忍は翼が心配でならなかったのだ。
でも言えない。
言えるはずもなかったのだ。
忍は翼に二面性を感じていたのだ。
「翼、どうしちゃったんだよ?」
遂に言葉がついて出た。
「え、何何? 東大が合格した甥子さんのこと?」
部下が声を掛けた。
人の秘密は密の味。
一言でも話すとたちまち噂になるだろうと忍は思い、それで止めることにした。
それでも部下はしつこく聞いてきた。
「いや、何でもないよ。ただ合格したって言うのに受験勉強をやめないんだ」
「勉強がよっぽど好きなんですね」
「そうなんだ、昔から。俺と親父で勉強を教えてやっていたんだけど、何時もクラスで一番だったんだ」
「なあんだ、ただの自慢話ですか?」
忍はハッとした。
気付かれないようにと思って、予防線を張った行為の愚かさに……
そして安心したように又飲み出した。
「そうだよな。アイツ本当に勉強が好きだったんだ」
「羨ましい。そうだ、甥子さんの東大合格おめでとうございます」
一人が言い出した。
「おめでとうございまーす」
それは全体の言葉になっていた。


