陽子と出会ってから、一年以上もの月日が過ぎようとしていた。

秩父神社への初詣は喪中の為に行かなかった。
その代わりに初日の出を見た翼の秘密基地へ行ってみた。


勝が買ってくれたワンタッチテント。
この中に入り、アルミシートにくるまれる。


過去を語り、未来の夢を語る。

翼と陽子はそこで改めて愛を確かめ合った。


初めてのデートの時見たコミネモミジ。
祖父勝の故郷を訪ねた折に見た清雲寺の枝垂れ桜。
勝の慰霊の為に訪れた熊谷での星川の灯籠流し。

それらの一つ一つ出来事によって二人の愛は育まれてきた。
そして二人はその愛の先にあるだろう、小さな命を望んでいた。




 一月四日。

今日から又家庭教師のアルバイトが始まった。


午後六時四十分。
自転車に乗って翼が出発した。

その様子をじっと見ている人がいた。
孝だった。
孝は自営のカフェで雇っているパティシエ目を盗んで、お土産に持参したケーキの土台に睡眠薬とブランデーを入れていた。


チャイムが鳴り忍が玄関を開ける。


「ちょっとそこまで来たものだから、お義父さんに線香を上げさせていただけたらと。これうちのパティシエの新作の洋酒ケーキですが」
孝はそう言いながら五つ入りのケーキを忍に渡した。


孝の言葉に騙されてつい家に招き入れてしまった忍だった。

その時孝は居間の壁にあるドアホンを確認した。

それは自分の家にもある映像の出るタイプだった。

孝の顔が一瞬曇った。


仏壇で合掌をすませた孝は、忍の案内で居間に通された。

居間では陽子と純子がくつろいでいた。

孝に良いイメージがない陽子は、一瞬たじろいだ。


「お持たせですが」
忍は孝の持って来たケーキの箱を開けて皿に取って四人に配った。