暗い寝室で翼は一人、窓を見つめていた。
手元にはあの写真。


何も知らす部屋に入ってきた陽子。
翼を見て驚く。

幽霊でも見たかのように、上半身がキュッとなる。

恐る恐る確認後、やっと翼だと気付いた。


陽子がたまりかね部屋に電気をつける。


「どうしたの翼? おじ様の幽霊かと思ったよ」

陽子は翼を胸に抱くように首から手を回した。


翼の背中に陽子の温もりが伝わる。
翼は目を閉じ、優しい時間に身をおいた。


「実は陽子に隠し事をしていた」


翼は目をつむり大きなため息を吐いた。


「この写真見て」
そう言いながら翼は、薫と言われた写真を陽子に渡した。


「 おじさんは薫姉さんだと言ったのに、裏には香とある」


「あっ本当だわ。でもお義兄さんが間違えるの仕方ないわ。ほらこの黒子薫お義母さんのよ。私この目で見たわ」


陽子は上目遣いで物思いにふけりながら話を続けた。


「あれは、おじ様が危篤状態になったとみんなが集まっていた日。お義母様が殆どお化粧なしで現れて……その時に髪が揺れて」


陽子の言葉で翼は、香と勝が呼んだことを思い出した。


(お祖父ちゃんは黒子を見たから香と言ったんだ! そうだ、母さんは何時も耳を隠していた。香だとバレるからか? そう言えば母さんは何時もお化粧していた。あ、あの白いチューリップ。香さんが好きだって言ってた白いチューリップ。本当は母さんの好きな花だった……)