「せいが保育園に入ってから

母親としてなんだか、ホッとしてしまう瞬間が正直あるの。」

「そうかぁ・・・子供はまだ母親1番なんだぞ。」

バーでそんな話をできるのも久保だけ。

さゆりは金曜日が待ち遠しく、久保とは社内でもメールをしていた。

「なんだ・・・こないだの涙は・・・」久保はさゆりのあの涙が気になっていた。

「なんか・・・本当にスミマセン。」

さゆりはお酒なんて久々で、しかも心置きなく話せる久保にすっかり安心しきっていて・・・

「久保さんのところだってお子さんいるでしょ?」

「あぁ・・・でも、2人とも、もう大きいしな。」

中学生と高校生の娘がいるという。

「子育てって大変だけどさ。母親っていいよな。父親よりも子供に愛されてて。」

「そうなんですか・・・?」

久保も社会で懸命に働いてきた。

幼少期、子供に深く関われなかった自分に少し後悔していた。

「がんばれよ。子供のためにもさ。」そういうと、さゆりの手に自分の手を乗せた。

「あっ・・・」さゆりはちょっと驚いて手を引っ込めたけど

「なんだよ。意識すんなよ。これくらいで。」

久保の余裕な態度に、なんだか気分も和んで。

「そうですね・・・」

久々に誰かに身をゆだねるってことが嬉しくって。

「こうしててもいいですか?」そっと久保の手を握りかえした。

「送って行こうか?」久保が気遣うけど

さゆりはなかなか、店を出ようとはしなかった。

「あと1杯だけ」って・・・

「もう、なんだよ・・・おまえは・・・」

「だって・・・」

さゆりはなんとなく帰りたくない自分がいて・・・

久保の手のひらに

指でその感情を焦らす。

「行こうか・・・」

久保はさゆりを連れて店を出て

タクシーを拾った