「――などを巡る与野党の対立が続く中、行政機能が停止に追い込まれかねないとの懸念が強まったため、
目先の利益を確定させるための売りが広がったようです。」


テレビの中、女性アナウンサーが世界の経済情勢を淡々と読み上げる。
笑顔も作らず硬い表情で、時折手元の原稿を確認しながら進行していく。

早朝のニュース番組。声の調子も、淡白さも、これくらい事務的なほうがいい。

火産 静禍(ほむすび しずか)は視界の端でテレビ画面を捉えながらそんなことを考え、出来立てのコーヒーをマグカップへ注いだ。
部屋中にほろ苦い香りが湯気となって広がる。

コーヒーを口に含むと、キッチンからテレビの正面、ベッドの方へと移動した。
ベッドに腰掛けるともう一口コーヒーを飲み、手前のローテーブルにカップを置く。
ガラス製の天板はゆっくりと置いたにもかかわらず無遠慮に硬質な音を盛大に立てた。
だが、それを長く使っているのであろう静禍は気に留めることなく、ニュース番組から視線を外すことはなかった。

天板を囲うのはメタリックなフレーム。ベッドや、本類を収納する棚も素材が統一されている。
ファブリックも黒が基調。12畳ほどのワンルームは、キッチン以外あまり生活感の無い無機質な部屋だった。

決して狭くは無いが広くも無いこの部屋が、彼にとって唯一の『安住の地』である。