スピカ ―記憶の欠片―



「帰ったぞ~」


先生の声が聞こえる。


向こうの方ではガソゴソと物音。

回診からのお帰りらしい。




「……ヒノ」


彼はそれだけ言って、窓から出て行った。

何事もなかったかように、波の音だけが響く。


私は、特に意味もなく窓を見つめる。

彼は誰だろう、そんなことを考えながら。




不思議な少年だった。

突然現れて、突然姿を消して。



私が見ていた、夢なのだろうか。

それは幻のように儚げで、悲しい夢だった。






「おぉ、ただいま」

「先生、マリさん。おかえりなさい」


私は汗だくになった2人に冷たい水を渡す。

ちょっとした心遣いだ。



マリさんは、片手に白い紙袋を持っている。


かなりの重量がありそうだ。

マリさんの腕力がいかほどなのかが気になる。



「いつまでもその服は嫌でしょ? 服をいくつか買ってきたの。サイズは合ってるはずだから後で見といてね」


マリさんは、持っていた紙袋を私に渡す。

ずっしりと両手首に重みが伝わってきた。


そっと中を覗いてみると、言葉通りに服が入っていた。

出してみてもいいかと確認を取ってから、中身を取り出す。


3着入っていて、どれもひざ丈のワンピース。


柔らかくて、鮮やかな色合いの服。

高価なものだということが一瞬で分かった。



「あ、あの、これ高いものじゃ……!?」

「この島はね、染め物が伝統なの。だから、ここで買えば安いのよ。わざわざこの服を買うためだけに、観光客が来るぐらい有名でね」

「だから気にせんでよい」

「ありがとうございます!」


そういえば、今着ている服もかなり上質。

どうして今まで気づかなかったんだろう、と思ってしまうほど。



「夕飯の準備ができるから、行きましょう」

「はい!」



私たちは、食事をするために、別の部屋へ向かった。