スピカ ―記憶の欠片―


「船が来るまでここにいたらよい。心配せんでも、代金はいらんよ。おまえさん、一文無しじゃろう」

「……いいんですか?」

「よいよい。人間、困ったときは助け合うものじゃ」

「あ、ありがとうございます!」


私はお金という代物を一切持っていなかったから……このまま放り出されたら、死んでしまうところだった。


良かった。

優しい人たちで本当に良かった。


いくら今が夏だとはいえ、食料・水がなければ生きてはいけないだろう。

そんなことを頭の隅で考える。



「まぁ、一度ゆっくり休むといいじゃろう」

「先生、そろそろ回診のお時間ですよ」

「あぁ、そうじゃったそうじゃった。1時間ぐらいで戻る。院内を回っておいで。といっても、狭い家じゃが」


どうやらここは、先生の家らしい。

つまり家を病院にしているのか。


先生はマリさんと一緒に、部屋を出て行った。

窓の外をみると、浜辺を歩く2人が見える。


……近くに家なんて見えない。家同士がかなり遠いのだろう。なのに、徒歩。

お医者様も大変だ。




「さて、と」

私はベッドからそっと降りる。

せっかくだし、院内の探検でもしよう。


幸い、体はどこも悪くはない。

あっても擦り傷ばかりだ。


これはいい運動になるはずだ。

鈍りきった身体は重くて仕方ない。今のうちに運動に慣らしておこう。




「……ん?」


歩き出そうとしたとき、後ろに何かの気配。

不思議に思って、私は振り返る。



――――窓枠に人が座っていた。