スピカ ―記憶の欠片―



「すまんすまん……。1つ1つ話していこうかの。まず、ここは見ての通り病院じゃ。この島唯一の病院でな……それにしては小さいが」


おじいちゃん先生は、柔らかな笑みを浮かべる。


なんだか、安心する。

温かくてお日様のような笑顔だ。



「そいで、わしが院長じゃ。先生、とでも呼んでくれ。こちらは助手のマリーさんじゃ」

「みんなはマリさんって呼んでるわ。よろしくね」


マリさんは、にっこりとほほ笑む。


綺麗なお姉さん、というイメージを持った。

ショートカットが、さっぱり美人な顔によく似合っている。




「――――で、問題はおまえさんのことじゃが」

「……あなたは、窓から見えるあの浜辺で倒れていたの。全身がびしょ濡れだったから、多分流れ着いたのね」



先生たちは、さっそく本題に入る。

私も気になっていたところだ。


あの浜辺に流れ着いた。ということは、私は海で漂流してたのだろか。

……何があったのか、全く分からない。



「おまえさん、じゃ呼びにくいの。名前は?」

「――――分かりません。思い出せないんです」


ふざけてなどいない、私は大真面目だ。本当に思い出せない。


私の名前って何だった――――?



「なんと! では、年齢は?」

「……分かりません」

「住んでいた場所は?」

「……分かりません」


先生は次々に質問してくるけれど、結局のところ、私はどれにも答えることができなかった。




「――――記憶喪失、か。海で流されている間に、記憶をなくしたのもかもしれん」

「そう、ですか」

「本土の大きな病院に行った方がいいじゃろう。……しかし、船は1か月に一度しかでん。しかもその船が出たのは一昨日で」



先生は、難しい顔をする。


残念なことに、ツテなど一人もいない。

正真正銘の八方ふさがりだ。どうしようもない。


路頭に彷徨うのだろうか。

今は夏だから、外で寝ても大丈夫だろうが……。食料など一切ない。


どうやって生活しようか。