主人は急いでアルバムを開けた。

そこに写っていたのは、結城智恵だった。


「えっ!?」

驚きながら顔を見合わせる正樹と美紀。

狂ったように泣き出す主人。

美紀は思わず祖父であろう白髪まじりの主人を抱き締めていた。


(ああ、やっぱり。この人が私のお祖父さん。お母さんの父親……パパは真実を探し出してくれたんだ)

美紀は両腕で、本当の家族を……
母の父親を感じていた。




 結城智恵は双子だった。

新生児室に忍び込んだ犯人はそれを知らずに、結城智恵だけを誘拐したのだった。


その日の内に資産家宅へ届けられた脅迫状。

中には多額な身の代金の請求が書かれていた。


警察は極秘の内に捜査した。
子供の命を守ろうとしたからだった。

それが更なる悲劇を生むことになったのだった。

昭和三十八年に起きた誘拐事件をきっかけに、報道協定が敷かれるようになったからだった。

知人の見舞いを装って、犯人は病院に向かった。

そこで見たものは、資産家の娘が子供を抱いた姿だった。

人違いしたと思い込んだのは当然だった。

自分が疑われないようにと、東京駅のコインロッカーに乳児を生きたまま放置したのだった。


新大阪から東京まで……
結城智恵はどのような扱いを受けたのだろう?


正樹はせめて……
その胸に抱かれていたと思いたかった。
例えその人が憎い誘拐犯だったとしても。




 「この子があなたの孫に当たる美紀です」

正樹は主人を抱き締めている美紀の肩を触った。


「えっ……」

主人は声にならない声を発した。


美紀を見つめる主人の目に涙が溢れてくる。

美紀は今度は主人の前方から抱き付いた。


正樹は道で倒れていた臨月の結城智恵を出産後看取ったこと。

産まれてきた女の子を我が子として育てて来たたことを主人に打ち明けた。


やっとたどり着いた結城智恵の真実。

正樹が導き出した美紀のルーツ。

でもそれは更に悲しい現実へとリンクしていた。