郊外の大邸宅の前に二人はいた。
それはあの誘拐事件の被害者宅だった。


産婦人科の新生児室にいた乳児が誘拐され、多額の身の代金が要求された。
というものだった。
インターネットを見た時何かが引っかかった。
それが何かが解った。
それは東海道新幹線の存在だった。


「流石に、誘拐事件の起きた家は違うね」

正樹はつい、本音を漏らした。

もしこの家が結城智恵の生家だとしたら……

もし誘拐事件が起きなければ……

智恵は何不自由なく暮らしていたのかも知れない。


『私の出身地はコインロッカー』
そんなこと言わなくてすんだのかも知れない。

自分に気遣い、本音と愛を隠したままで生きていた智恵。

正樹複雑な心を抱き抱えながらこの家の主人の出迎えを待っていた。




 警察は二人が尋ねた後、倉庫の奥に眠っていた事件の資料を調べ、被害者宅に電話をしてくれていた。

だから四十年前に起きた誘拐事件の真相を聞きたいと言ったら、直ぐにOKしてくれのだった。

警察官二人も同席することになった。

既に時効を迎えた事件だとしても、この管内で起きた犯罪だったのは紛れもない事実だった。


この邸宅の主人は一年前に舌癌で、手術を受けたために会話は全て筆談によるものだった。


――なぜここへ――
スケッチブックにそう書いてある。
正樹はゆっくり話出した。


「私の同級生が、あなたのお子様ではないかと思いまして」
正樹はそう言いながら、施設から借りてきた中学生の結城智恵の写真を差し出した。


「この子がその結城智恵さんです」


主人はその写真を見て顔色を変えた。
警察官を指差し、声にならない声で、アルバムを取って欲しいと懇願した。

ただならぬ気配を感じた警察官は、指し示す先のアルバムを持ってきて主人に渡した。