正樹はもらって来た資料のコピーを美紀に渡した。

「この人が本当にパパ? カッコイイ人だね」

美紀が見ている新聞のコピーは、正樹が図書で手に入れたものだった。
父親が人気ミュージシャンだと解って美紀は複雑だった。


当時一大センセーションを巻き起こした人気ロックグループ。
α(アルファ)
そこのボーカル。
それが美紀の父親だったのだ。


真吾がこの道に進んだのには訳があった。本当の親を探すためだった。

親の顔が見てみたい。
事情を知っている友達からもそう言ってからかわれた。

気にしたくなくても気になった。
それならばと施設育ちと駅に捨てられていた事実を全面に出して、親を探そうとしたのだった。


ずっと支え合って来た智恵に子供が宿ったと知った時、初めて家族が出来たと大喜びした真吾。


事務所の反対を押し切って結婚を発表した。

中には、熱狂的なファンもいた。
彼女さえいなかったら私が。
その願望が犯罪を招いた。
二人でいたところを狙われてしまったのだ。

刺されたのは真吾だった。
智恵を庇ったためだった。
真吾は公表した事を愛する妻に詫びながら死んでいったのだった。




 「父が庇ってくれなかったら私はここに居なかったのね」
美紀は泣きながら父と母のアルバムを抱いていた。


「お前のお母さんは、彼の意志を継いでお前を産んだんだ。愛のために」


学校から帰って来た秀樹と直樹もその事実を知らされた。

「美紀の父親がミュージシャンだったなんて。カッコ良すぎる」
直樹が言った。


「家のパパとは大違いだ」
調子づいて秀樹が言う。


「こらっ。親を馬鹿にして!」
正樹の軽い拳骨が飛ぶ。


「だってパパ、がに股なんだもん」


「これは所謂職業病だ。投げ飛ばされないように体を低くするんだよ」

苦しい言い訳だと正樹は思う。
そんな三人を隣で暖かく見守る美紀。

優しさ溢れる家族の姿がそこにあった。