正樹は美紀の応援に観覧席に来ていた。

コート上で試合前の練習をしている美紀を見て思わず息を飲んだ。


「あ……、珠希が美紀と一緒にいる」

正樹はたまらず呟いた。


正樹は珠希の癖を知っていた。
それを美紀もやっていたのだ。

それは、一つにざっくり纏めたヘアが気になり手を何度も持って行くことだった。

ストレートヘアが自慢だった珠希。
でも試合の時には邪魔になる。
だから緩く縛るのだ。

美紀は何時もはツインテールだった。
でも今日は珠希同じヘアスタイルだったのだ。
それは美紀が珠希の力を借りたくて選んだものだった。




 「レディ」
主審の声が響き渡る。
練習を終わりにしてください。
今からゲームを開始しますから、と言う合図だ。


プレイヤーは決まったポジションにつかなければならない。


「サービスサイド松宮高校松尾美紀……」
審判が読み上げる自分の名前を聞きながら、美紀は応援席に目をやった。


(パパ、ありがとう。ママ……恥じないようにプレイーするから見ていてね)

美紀は力強く、天国にいるはずの珠希にも誓った。


それぞれの持ち場で全員が身構える。


「ママ力を貸して……」
二本のシャフトのラケットに語り掛ける。

美紀は前衛の位置で武者震いをしていた。




 後衛のサーブはリターンされて美紀の後方へと飛んで行く。

後衛がこれを上手く処理してラリーに繋げた。
後はタイミングを見てスマッシュで決める。


「ワンゼロ」
主審の声が会場に響き渡った。
サーブ権のある選手が勝った場合得点は頭に付く。

硬式テニスのヒフティラブとは違い、ワン・ツーと発言する。

ワンゼロとは、サーバーに得点 が入ったことを意味していた。

同じ得点になった時はオールとなる。
ワンオール、ツーオールとなり、スリーオールでデュースになる。
デュースになった場合、先に二ポイント連取した者がそのゲームを制したことになる。


試合は全部で七ゲーム。
四ゲーム先取した者が勝者となる。




 美紀は珠希が乗り移ったかのようなスーパープレイを連発した。
面白いように決まるスマッシュ。
勢いに乗って出したラケットが、エースになる。
一日目は絶好調だった。
美紀達は翌日の試合にも出場出来ることになった。