(あらっ、何時の間に!?)

ふと……
白い矢車草に目がいく。


「今年も咲いてくれたね」

美紀は懐かしそうに、その花を見つめた。


矢車草には美紀の育ての母・珠希(たまき)との思い出があった。

初めて貰ったお小遣いで、美紀は花の種を買った。

兄弟がスナックを買うのを横目で見ながら……


(いいなぁ)
確かにそう思う。


(でもこれなら、ずーっと楽しめる!)

店頭に沢山並んでいた花の種を見ながら、美紀の目は遠い未来を見つめていた。
そう……
目の前にある種が花開く数カ月先を。




 だけど美紀は迷った。
余りに種類が豊富だからだ。


その中から見つけた物。
それが矢車草だった。
前面に描かれた、花火のような絵にひかれたのだ。

珠希がは花火を好きだったことを思い出したのだ。
この家を選んだのだって、此処から見える……
からだった。

遠花火だったけど。


(どんな花が咲くんだろう? きっと何処にもないような花なんだろうな。ママ、喜んでくれるかな?)

美紀は珠希の喜ぶ顔を想像しながら、そっと買った種をポケットにしまった。


美紀は知らなかった。
その矢車草が、本当は珠希のプレゼントだったと言うことを。




 矢車草はなかなか咲いてくれなかった。

でも珠希はその花がどんな物なのか知っていた。
だからきっと美紀がっかりするだろうと思っていたのだ。


そこで、こっそり近くで咲いていた矢車草をもらって移植したのだった。


白い矢車草……
それは花びらが色あせたものだったのだ。
最初から咲くものではなかったのだ。


珠希はそれを知っていた。

それでもあえて白くなっていた矢車草を植えたのだった。


美紀を喜ばすためだった。
美紀をがっかりさせないためだった。


珠希は本当に優しい人だったのだ。
今更に気付く美紀。

感謝の心を伝えたい。
でも珠希は五年前に亡くなっていたのだ。