「病院で再会した時、ママには初恋の人だったって紹介した」


「正直だね」


「ママもそう言ってた。父親は出産時には亡くなっていたんだ。同じ施設で育った幼なじみだと聞いている」


「だからパパとママが育てることにしたの?」

「そうだよ。ママは、双子も三つ子も大して変わらないって言って笑ってた」


「ママらしいや」
直樹はそう言いながら、珠希の遺影に目をやった。


「だからママ、いつも笑っていたんだね。あんなに可愛い美紀のママになれたんだから」
言ってしまってから直樹は赤面した。

直樹は二人に気付かれないように、ずっと遺影を見つめた振りをしていた。

直樹は美紀を意識し初めていたのだ。




 正樹は思い出していた。
美紀を初めて胸に抱いた日のことを。


母である結城智恵の死も知らず、生きている証を伝えようとして懸命に泣いていた小さな美紀を。
この手に、この腕に、この胸に受け止めた大きな生命の重さを。


あの瞬間に感じた結城智恵への恋心。
初恋故の傷み。
その全てを理解し、美紀を養女として育てることを提案してくれた珠希。
今正樹は改めて、珠希の大きな人柄に感銘を受けた日を。


珠希の誕生日に真実を告げる羽目になったのは、妻の意志ではないだろうか?
正樹はそう思えてならなかった。




 直樹は風呂に浸かっていた。
何時ものバスタブのはずなに何かが違う。


さっきまで美紀が入っていた。
そう考えるだけで興奮してくる。


どういう訳か、脳裏に浮かぶのは美紀のことばかりだった。

実は今日、帰り道で直樹は大に告られていたのだ。

美紀に玉拾いを冷やかされた時、急に恋心が目覚めたと大は言っていた。

そんなことがあったからこそ、直樹は自分を見失ってしまったのだ。


「ふうー」
何度目かの溜め息を吐きながら、湯船にゆっくり体を沈める。


(何だろうこの気持ち? まさか!? まさか恋かー!?)

突然脳に閃いた恋と言う感触。
直樹は何度も何度も頷きながら確認していた。




 「兄貴、ちょっといい? 大のことなんだけれど」
脱衣場に来た秀樹に直樹が声を掛けた。


「大の奴、美紀に恋したんだって」
直樹はストレートに秀樹にぶつけた。


「大が?」
秀樹は思わず吹き出した。


「そんな柄じゃねえだろアイツ」
秀樹は肩を震わせ笑っていた。
目前に恋のバトルが迫っているとも知らずに。