部活動を終えて秀樹が帰って来た時、美紀は唐揚げを作ったいた。


「おっ、うまそ」
つまみ食いをする秀樹。


「秀ニイ、先に手を洗ってよ。全く子供なんだから」

美紀のお目玉を食らって、シュンとする秀樹。
コソコソ逃げ出す。
そこへ直樹が帰って来る。


「おっ唐揚げ、久しぶり」
直樹の出した手を、取り上げる美紀。


「食べないでよ。ママが悲しむ」


「ママが…… あ、唐揚げか? そうか、今日はママの誕生日か」

直樹はマジマジと美紀を見つめた。


「そうかだからそのヘアースタイルなのか?」

美紀は何時もはツインテールで、珠希の記念日だけ真似をすることにしていたのだった。

長髪は料理の邪魔になる。
そこで、髪を後ろで一つにまとめるのだ。
それは生前の珠希が普段やっていたヘアースタイルだったのだ。

だから直樹は見ただけで気付いたのだった。




 小学六年生のバレンタインデー。
美紀は珠希ににトリュフチョコと唐揚げの作り方教えてもらった。

製菓用チョコレートを刻んで、湯煎で熱い生クリームに溶かす。
これをスプーンで掬いココアの中に並べる。
これを一口大に手のひらで丸めココアパウダーでコーティングする。

ビニール袋に鶏肉を入れ、めんつゆを少量絡め空揚げ粉を振り入れ良く混ぜてから油で揚げる。

トリュフも空揚げも、男性陣に大好評だった。

そのお返しの花壇に蒔いた種がやっと発芽した頃、珠希が返らぬ人となってしまったのだった。




 三つ子の兄弟の世話は、珠希の妹・叔母の沙耶が見てくれた。

その時美紀は沙耶から、本当は珠希が鶏嫌いだったことを教えてもらった。

そう言われてみると、おっかなびっくりだった珠希。

美紀は、自分に教えるために無理をした珠希の負けず嫌いの性格に感服した。

美紀は悲しみを乗り越えるために再び唐揚げを作ったのだった。

母・珠希との大切な思い出の日に限って。




 でも美紀は不思議だった。
実は美紀も鶏が苦手になっていたのだった。

そう……
まるで、珠希の鶏嫌いが移ったかのような錯覚に時々陥る。

美紀は自分自身に自信をなくしていた。


物凄くパパが好きになる。
物凄く兄弟が愛しくなる。
美紀はその度に戸惑っていた。


(ママになった気分てこんなものなのかな?)
何気にそう思った。

それが何を意味しているのか?
本当に美紀は何も知らなかったのだ。