「あのー、実は私も免許が無いんです」
慌ててそう言った。


(そうなんだよ。私も免許がないだ。だって東京で働くから要らないと思っていたんだよ)


そう、だから母は私を東京へ送り出してくれたのだった。

でもお金のことで迷惑掛けたくなかった。
とても免許が欲しいなんて言えなかったんだ。

だから母には、東京に行けば免許は要らないと言っていたのだった。




 「行ってらっしゃい」

玄関の前で手を振った。

私はその足で庭に行き、土の袋などを見て回った。
植えたばかりのじゃがいもから芽が出ているはずもなく、それでも辞めない私を不思議そうに大君が見ていた。


(何かしていないと間が持たないよ。大君と二人っきりだなんて、何となく嫌だな)

私は本当は昨日の農作業を始めたのもそんな理由からだったのだ。




 「あれっ、こんな物此処にあった?」
ピロティの箱を見て、大君が言った。


「あ、何でもないよ」

私は慌てて飛んで行き、それを隠した。


何故こんな物を此処に置いたのか、訳が判らないのだ。
気が付いたら、手に蟷螂の卵があった。
なんて言えるはずもなかった。

大君もきっと手持ちぶふさだったのだろう。

だからあちこちを歩き回っていて見つけたのだ。


(ごめんね大君、私自分が判らないの。許してね)




 家に帰って来た直樹君は妙に明るかった。


でもそれが何処か無理をしているように見えた。


「大、さっきの合宿免許のことなんだけど……費用はどのくらいだった?」
直樹君が改まって大君に聞いていた。


(免許でも取る気なんだろうか?)
私は直樹君の本心を知りたくて黙って聞いていた。


「二十万位だったかな。シングルで食事付きならもう少し高いけど、相部屋の自炊だったから思ったより安かったよ」


「えっ、大君自炊出来るの?」


「当たり前だよ。野球部の合宿なんかでカレーとか普通に作ってたよな?」
大君は直樹君を見ながら言った。


「と言うことは全員?」
私は三人の顔をみていた。
その中で一人だけばつの悪そうなのがいた。
それは秀樹君だった。


「俺はエースなの。そんなことは部員に任せれば済むんだよ」


「えっー!? ブー」


「兄貴にまさかの駄目だしブーイングかー」

直樹君が大笑いを始めた。